火星には、現在も水があります。その中心は、極域や地下に保存された氷と、大気中にわずかに含まれる水蒸気です。
現在の火星で観測されている水の中心は、極冠や地下の水氷と、大気中を循環する少量の水蒸気です。
火星の表面には、かつて水が流れていた時代の記録も残っています。枝分かれした谷、三角州、湖底に積もった堆積物、水と反応してできた鉱物などです。
さらに地下では、浅い場所にある水氷に加え、南極の氷床下や地下約10〜20kmに液体水が残る可能性も研究されています。
火星の水を、現在・過去・地下・水が移った先に分けると、観測で確認された内容と、モデルから推定されている内容の違いが見えやすくなります。
火星に水はあるのか
現在の火星では、水の大部分が氷として保存されています。極冠だけでなく、中緯度を含む広い地域の地下にも水氷が分布しています。
現在確認されている中心は水の氷
火星の南北の極には、白く見える極冠があります。
北極の一年を通して残る極冠は、主に水の氷でできています。南極にも厚い水氷があり、その表面の一部には、一年を通して残る二酸化炭素の氷があります。
冬になると両極で二酸化炭素の霜が広がり、暖かくなると昇華して大気へ戻ります。火星の極冠を理解するには、水氷と二酸化炭素氷を分けることが大切です。
氷は極域だけに分布しているわけではありません。極域から中緯度にかけての地下には、土や堆積物に混じった水氷が広がっています。
地下氷は、周回機のレーダー、水素の分布を測る中性子観測、新しい衝突クレーターに露出した氷の撮影など、複数の観測方法から確認されています。
2008年には、着陸機フェニックスが火星の地表を掘削し、浅い地下にある水氷を確認しました。

出典:NASA
火星の大気にも少量の水蒸気が含まれています。地表の土や岩石には、鉱物の構造へ取り込まれた水もあります。
現在の火星の水は、極冠、地下氷、土壌や鉱物中の水、大気の水蒸気を合わせた姿として捉えることができます。
表面の液体水が長く残りにくい理由
現在の火星は、平均気温が約マイナス60℃で、大気圧は地球の1%未満です。
この低温と低い気圧のもとでは、地表に出た液体水は急速に沸騰・蒸発し、その過程で熱を失って凍結します。残った氷も、時間とともに昇華して水蒸気へ変わります。
塩分を多く含む水は凍結温度が下がるため、条件がそろった場所では、一時的に液体相が生じる可能性があります。
斜面に現れる筋状の模様についても、水分を含む現象、乾いた砂や塵の移動など、複数の仕組みが検討されています。
火星の水を状態別に整理
現在の水を、状態、場所、研究上の位置づけで整理すると次のようになります。
| 水の状態 | 主な場所 | 現在の位置づけ |
|---|---|---|
| 水氷 | 極冠、極域〜中緯度の地下 | 観測で確認 |
| 水蒸気 | 大気中 | 観測で確認 |
| 地表付近の液体相 | 塩分や温度条件がそろう局所環境 | 一時的な発生条件を研究中 |
| 地下深部の液体水候補 | 南極氷床下、地下約10〜20km | 間接観測とモデルから研究中 |
昔の火星に川や湖があった証拠
現在の火星は乾燥していますが、地表には水が流れていた時代の地形と岩石が残っています。
周回機が撮影した広域画像と、探査車が地表で調べた岩石を組み合わせることで、過去の水環境が少しずつ復元されています。
地表に残る河川と洪水の地形
火星の古い地域には、上流から下流へ枝分かれする河川網が広がっています。
地球の川に似た曲がりくねった谷もあれば、大量の水が短時間に流れたときに形成されたと考えられる幅広い流路もあります。
周囲より高く盛り上がった逆転河川地形も見つかっています。
かつての川底に硬い堆積物がたまり、その周囲にあった柔らかい地層が風で削られた結果、元の川の跡が高い尾根として残った地形です。
河川跡の形、流路のつながり、堆積物の分布を高解像度画像から読み取ることで、火星で水が流れた範囲と方向を推定できます。
三角州と湖底堆積物
川が湖や海へ流れ込む場所では、運ばれてきた土砂が積もり、扇状の三角州が形成されます。
ジェゼロ・クレーターには三角州に似た堆積地形があり、かつて湖へ川が流れ込んでいたと考えられています。探査車パーサヴィアランスは、この三角州と周辺の岩石を調査しています。

出典:NASA
ゲール・クレーターでも、探査車キュリオシティが湖底で形成された層状の堆積岩を観察しました。
枝分かれした谷、三角州、湖底堆積物は、過去の火星に川と湖が存在したことを、地形と岩石の両面から強く支えています。
水と反応してできた鉱物
水の記録は鉱物にも残ります。
粘土鉱物は、岩石が水と反応することで形成されます。硫酸塩などの塩類は、水が蒸発する過程で生じることがあります。
火星の各地では、こうした水と関係する鉱物が確認されています。
鉱物の種類は、当時の水質や環境を知る手がかりにもなります。粘土鉱物は比較的穏やかな水環境を、硫酸塩は塩分や酸性度が高まった環境を示す場合があります。
地形は水がどこを流れたかを示し、鉱物は水がどのような性質を持っていたかを伝えます。
火星には海があったのか
川と湖の証拠に加え、火星の北半球には、広い海が存在した可能性を示す地形があります。
北半球低地を覆った古代海洋の仮説
火星の北半球には、南半球より標高が低く、比較的なめらかな平原が広がっています。
この北半球低地を、かつて大規模な海が覆っていたという説が提案されています。
根拠として調べられているのが、海岸線に似た段差、低地の縁にある三角州状の地形、堆積物の分布です。
火星全体へ水を均等に広げた場合の平均水深を計算し、推定される水量を比較する研究も行われています。
海の規模と存在期間を調べる
海岸線候補の高さには、地域ごとの差があります。
この差は、火星の地殻変動や、惑星表面全体が自転軸に対して移動する極移動などで説明できる可能性があります。
海がどこまで広がり、どのくらいの期間存在したかについても、複数の気候・地形モデルが比較されています。
北半球の古代海洋は有力仮説であり、現在は海の規模、深さ、存在期間を絞り込む研究が進んでいます。
過去の水の証拠を確かさで整理
| 内容 | 現在の位置づけ |
|---|---|
| 河川が流れた | 地形から強く支持 |
| 湖が存在した | 三角州と湖底堆積物から強く支持 |
| 北半球に広い海があった | 有力仮説。規模と期間を研究中 |
現在の水は火星のどこにあるのか
現在の火星では、極冠、地下、大気に水が分布しています。
北極・南極の氷冠
極冠は、現在の火星で大量の水氷が確認されている代表的な場所です。
北極の残留極冠は主に水氷でできています。南極には厚い水氷があり、その上の一部を永久的な二酸化炭素氷が覆っています。
冬には二酸化炭素の霜が広い範囲へ積もり、暖かくなると昇華して大気へ戻ります。
極冠の内部には、氷と塵が重なった層があります。層の厚さや塵の量を調べることで、火星の自転軸や気候が過去にどう変化したかを読み取れます。
中緯度に広がる浅い地下氷
極域から中緯度にかけての地下には、水氷を含む地層が広がっています。
周回機のレーダーは地下構造を調べ、中性子観測は水素の多い地域を特定します。新しく形成されたクレーターでは、地下から掘り起こされた明るい氷が直接撮影されています。
地下氷は将来の探査資源としても注目されています。飲料水、酸素、ロケット燃料の原料として利用できる可能性があり、深さと分布の調査が進められています。
大気を循環する水蒸気
火星の薄い大気には、少量の水蒸気が含まれています。
水蒸気の量は季節によって変化し、極域の氷が昇華する時期には大気中の水分が増えます。
大規模な砂嵐が起きると、塵が大気を暖め、水蒸気をより高い場所へ運ぶことがあります。
上層大気へ達した水分子は紫外線によって分解され、軽い水素の一部が宇宙へ流出します。現在の火星でも、水の散逸は少しずつ続いています。
火星は地上や周回機だけでなく、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による赤外線観測の対象にもなっています。ただし、火星の水に関する結論は、複数の探査機や地形・鉱物観測を組み合わせて整理されています。
地下に液体の水は残っているのか
地下にある水は、浅い水氷と、液体水が推定される深部の領域に分かれます。
浅い地下氷は複数の観測で確認されています。一方、地下深部の液体水は、レーダーや地震波を使った間接観測から研究されています。
南極地下の明るいレーダー反射
2018年、ESAの探査機マーズ・エクスプレスに搭載されたレーダーMARSISの観測から、南極氷床の下、深さ約1.5kmに明るい反射領域が報告されました。
研究チームは、観測された強い反射を説明する候補として、塩分を多く含む液体水を提案しました。その後、周辺にも似た反射領域が見つかっています。

出典:ESA/Context map: NASA/Viking; THEMIS background: NASA/JPL-Caltech/Arizona State University; MARSIS data: ESA/NASA/JPL/ASI/Univ. Rome; R. Orosei et al. 2018
複数の物質から反射の原因を検証する
明るいレーダー反射には、塩分の濃い液体水のほか、なめらかな岩盤、粘土鉱物、塩分を含む氷、火山性の地層など、複数の解釈が提案されています。
研究では、反射の強さ、周囲の温度、氷床の厚さ、地下の地質を照合し、どの物質が観測結果を最もよく説明するかを検証しています。
現在の観測結果は、南極氷床下の液体水説と、地質構造や氷の性質による説明の両方を残しています。
InSightの地震データが示した地下深部の水
2024年に公表された研究では、着陸機InSightが記録した地震波を岩石物理モデルへ当てはめ、地下約10〜20kmの岩盤の割れ目を液体水が満たす可能性が示されました。
地震波は、岩石の種類、空隙の量、空隙を満たす物質によって伝わる速さが変わります。研究チームは、InSightの観測値と地球の岩石モデルを比較し、割れ目へ水が入り込んだ岩盤がデータとよく合うとしました。
その後は、より少ない水量でも同じ地震データを説明できるという研究も示され、地下水の量と分布をめぐる検証が続いています。
InSightの結果は地震波から導いたモデル推定であり、地下水の量は研究によって異なる見積もりが示されています。
推定された深さは10kmを超えるため、現在の掘削技術で直接到達するには大きな技術的課題があります。
地下氷と地下液体水候補を比較
火星地下の水は、浅い地下氷、南極氷床下の液体水候補、地下約10〜20kmの液体水候補という三つに分けると整理しやすくなります。

図解:Mystery Labo
| 種類 | 主な場所・深さ | 観測方法 | 現在の位置づけ |
|---|---|---|---|
| 浅い地下氷 | 極域〜中緯度の浅い地下 | レーダー、水素分布、撮影、掘削 | 氷として観測で確認 |
| 南極氷床下の液体水候補 | 南極、深さ約1.5km | MARSISレーダー | 液体水説と地質・氷による説明を検証中 |
| 地下約10〜20kmの液体水候補 | 地下深部の岩盤 | 地震波と岩石物理モデル | 水量と分布を研究中 |
火星の水はなぜ減ったのか
火星の水は、大気から宇宙へ逃げた成分、氷として保存された成分、鉱物へ取り込まれた成分、地下に残った可能性のある成分へ分かれていきました。
初期の火星は現在より厚い大気を持っていた
川や湖が存在した時代の火星は、現在より厚い大気を持ち、地表に液体水を維持しやすい環境だったと考えられています。
大気中の二酸化炭素や水蒸気などが温室効果を生み、表面温度を上げていた可能性があります。
初期火星の気候については、長期間温暖だったモデルと、寒冷な時代の間に短い温暖期が繰り返されたモデルの両方が検討されています。
火星が太陽から受けるエネルギーと、大気が熱を保つ仕組みの関係は、ハビタブルゾーンの記事で詳しく整理しています。
大気散逸によって水素が宇宙へ流出した
火星は地球より小さく、重力も弱いため、大気中の軽い粒子を長期間保持する力が小さくなります。
内部が冷えるにつれて、初期の火星にあった全球規模の磁場も弱まりました。磁場の変化によって、大気は太陽風や高エネルギー放射の影響を受けやすくなります。
大気中の水蒸気は紫外線で水素と酸素に分解され、軽い水素の一部が上層大気から宇宙へ流出します。
火星の水の変化には、小さな質量、内部冷却、磁場の変化、太陽風、紫外線による水分子の分解が重なっています。
水の一部は氷や鉱物として保存された
現在の極冠と地下には、水氷が残っています。
粘土鉱物や硫酸塩など、水と反応して形成された鉱物にも、水素や水酸基の形で水が取り込まれています。
地下深部にも、液体または氷の形で水が保存されている可能性があります。
火星の水の行き先
火星の水は、宇宙への散逸、極冠と地下の氷、鉱物への取り込み、地下深部での保存という複数の行き先に分かれたと考えられています。

図解:Mystery Labo
| 水の行き先 | 現在の理解 |
|---|---|
| 宇宙空間 | 水分子が分解され、水素の一部が流出 |
| 極冠・地下 | 水氷として保存 |
| 岩石・鉱物 | 含水鉱物の構造へ取り込まれた |
| 地下深部 | 液体または氷として残る可能性を研究中 |
水の証拠は生命探査とどうつながるのか
水が長く存在した湖底や三角州は、過去の居住可能性と、生命由来物質が保存される条件を調べる優先地点です。
古い湖底や三角州を調べる理由
三角州や湖底には、川が運んだ細かな粒子が積もります。
泥や粘土を含む細粒の堆積物は、有機物や当時の水質、気候の記録を保存しやすい性質があります。
ジェゼロ・クレーターやゲール・クレーターが探査対象に選ばれた背景には、こうした堆積環境があります。
CuriosityとPerseveranceが調べていること
探査車キュリオシティは、ゲール・クレーターで過去の環境が微生物を支えられる条件を持っていたかを調べています。
パーサヴィアランスは、ジェゼロ・クレーターで岩石の組成と堆積環境を調べ、将来の地球帰還を想定した試料を採取・保存しています。
水の履歴は生命探査の場所を絞る手がかりで、生命の判定には岩石や化学成分の追加分析が必要です。
火星を含む地球外生命の探索方法や、バイオシグネチャーの考え方は、地球外生命の探し方をまとめた記事で詳しく説明しています。
観測でわかったこと・研究中のこと
火星の水に関する情報は、観測で確認された内容、複数の証拠から強く支持される内容、モデルを含む研究中の内容に分けられます。
| 区分 | 主な内容 |
|---|---|
| 観測で確認 | 極冠と地下の水氷、大気中の水蒸気、河川・三角州・湖底の地形、水に関係する鉱物 |
| 強く支持 | 古代の川と湖、過去に現在より水の多い環境があったこと |
| 有力仮説 | 北半球を覆った広い古代海洋 |
| 研究中 | 南極氷床下の液体水候補、地下深部の水量、初期火星の気候 |
| 今後の観測課題 | 地表付近の一時的な液体相、地下水の直接確認、火星生命の痕跡 |
火星の水についてよくある疑問
火星には現在も水がありますか?
あります。北極・南極の極冠や地下に水氷があり、大気中にも少量の水蒸気が含まれています。極域から中緯度の地下氷は、レーダー、水素分布、撮影、掘削などで確認されています。
現在の火星に液体の水はありますか?
現在の表面では低温と低い気圧が液体水の長期維持を難しくしています。地下では、南極氷床下と地下約10〜20kmに液体水の候補が示され、複数の解釈を比較する研究が続いています。
昔の火星には海がありましたか?
北半球低地を広い海が覆ったという説は有力仮説です。海岸線候補、三角州、堆積物を使い、海の規模と存在期間を調べる研究が進んでいます。川と湖の存在は、地形と岩石からより強く支持されています。
火星の水はなぜ減ったのですか?
火星の小さな質量、内部冷却、磁場の変化、太陽風、紫外線が重なり、水素の一部が宇宙へ流出しました。水の一部は極冠や地下の氷、含水鉱物、地下深部へ保存されています。
火星に水があれば生命もいますか?
水の履歴は、過去に生命が暮らせる環境があったかを調べる手がかりです。探査車は湖底や三角州の岩石を調べ、有機物、鉱物、堆積環境などを組み合わせて生命の痕跡を探しています。
まとめ|火星の水は現在・過去・地下に分けて考える
現在の火星では、極冠と地下に水氷があり、大気中にも少量の水蒸気が循環しています。
過去の火星では、河川、三角州、湖底堆積物、水と反応してできた鉱物が形成されました。これらの証拠は、古代の川と湖を強く支えています。
北半球の広い海は有力仮説として研究され、海岸線候補や堆積物から、規模と存在期間の検証が進んでいます。
地下の水は、浅い地下氷、南極氷床下の液体水候補、地下約10〜20kmの液体水候補に分けることで、観測方法と確かさの違いを整理できます。
火星の水の一部は宇宙へ散逸し、一部は極冠や地下の氷、鉱物の内部、地下深部へ残りました。
現在の探査は、水がどこにあり、どのように移動し、過去にどんな環境をつくったのかを調べています。その積み重ねが、火星の気候史と生命探査をつないでいます。
参考情報
- NASA|Mars Exploration
火星の水、地形、現在進行中の探査の全体像の確認に使用。 - NASA|Mars Facts
火星の気温、大気、極冠、水氷などの基本情報の確認に使用。 - NASA|Mars 2020 Perseverance
ジェゼロ・クレーターの三角州、岩石調査、試料採取の確認に使用。 - NASA|Curiosity Rover
ゲール・クレーターの湖底堆積物と過去の居住可能性調査の確認に使用。 - ESA|Mars Express detects liquid water hidden under planet's south pole
2018年に報告された南極氷床下の明るいレーダー反射の確認に使用。 - NASA/JPL|NASA Orbiter Shines New Light on Long-Running Martian Mystery
南極地下のレーダー反射に対する地質構造などの別解釈の確認に使用。 - Wright, Morzfeld & Manga|Liquid water in the Martian mid-crust
InSightの地震データから推定された地下約10〜20kmの液体水候補の確認に使用。 - NASA|MAVEN Mission Observes Ups and Downs of Water Escape from Mars
火星大気からの水素流出と水の散逸の確認に使用。