ブラックホールとは何かを解説する記事のアイキャッチ画像。降着円盤や重力レンズ効果をイメージした宇宙科学デザイン

ブラックホール・時空

ブラックホールとは?光さえ逃げられない天体の仕組みを解説

2019年、中央に暗い影を持つリング状の画像が、世界で初めて捉えられたブラックホールの姿として公開されました。

ただし、画像に写っているのはブラックホール本体ではありません。ブラックホールは光を外へ返さないため、その姿を直接見ることはできないからです。

ブラックホールは、光さえ外へ逃げられない領域を持つ、極めて強い重力の天体です。それでも、周囲を回る星やガス、曲げられた光、合体で生じる重力波を調べることで、存在や性質を確かめられます。

外側で起きている現象は少しずつ観測できるようになりました。一方、事象の地平線の内側や中心部の状態は、現在の物理学でも解明されていません。

M87銀河中心のブラックホールをEvent Horizon Telescopeが撮影した画像

Event Horizon Telescopeが2019年に公開した、M87銀河中心のブラックホール画像。中央の暗い部分を、高温ガスが放つ明るいリング状の構造が囲んでいる。

出典:Event Horizon Telescope Collaboration / NASA Science

ブラックホールはどのような天体なのか

ブラックホールは、十分な質量が極めて小さな領域に集中したときに生じます。その周囲には、事象の地平線と呼ばれる境界があります。

事象の地平線を越えた光や物質は、外側へ戻れません。NASAはブラックホールを、重力が非常に強く、光を含むものが逃げられない宇宙空間の領域と説明しています。参考:NASA / What Are Black Holes?

ブラックホールは、空間に開いた物理的な穴ではありません。一般相対性理論では、質量やエネルギーによって時空が大きく曲がった状態として記述されます。

「ブラックホール」という名称は、1960年代に物理学者ジョン・ホイーラーが広めました。それ以前には「重力崩壊星」や「凍った星」といった呼び名も使われていました。

形成過程は、ブラックホールの質量によって異なります。恒星質量ブラックホールは、大質量星の中心部が重力崩壊することで生じると考えられています。

一方、銀河の中心にある超大質量ブラックホールが、宇宙初期にどのように形成され、短期間で成長したのかは十分にわかっていません。

大質量星が超新星爆発と重力崩壊を経てブラックホールになるまでの5ステップ図解

十分に重い恒星は、寿命の終わりに中心部が重力崩壊し、ブラックホールになることがある。

※ブラックホール形成の流れを簡略化した図解です。

ブラックホールは何でも吸い込むわけではない

「宇宙の掃除機」という誤解

ブラックホールは、周囲のものを無差別に吸い込む存在ではありません。

十分に離れた場所では、同じ質量を持つほかの天体と同じ法則で重力が働きます。

仮に太陽が同じ質量を保ったままブラックホールへ置き換わっても、地球が受ける重力の大きさは変わりません。地球は現在とほぼ同じ軌道を回り続けます。

ただし、太陽光が届かなくなるため、地球の環境は維持できません。軌道が保たれることと、生命が生きられることは別の問題です。

物質がブラックホールへ落ち込むのは、ガスや天体がエネルギーを失い、安定した軌道を保てなくなった場合です。十分な距離と速度を保つ天体は、ブラックホールの周囲を回り続けることができます。

なぜ光さえ外へ戻れないのか

一般相対性理論では、重力は単なる引力ではなく、質量やエネルギーによって生じる時空の曲がりとして表されます。質量の大きな天体ほど周囲の時空を強く曲げ、光の進路にも影響を与えます。

ブラックホールの事象の地平線より内側では、光がどの方向へ進んでも、外側へ到達できる経路がありません。光が途中で吸収されるというより、外へ向かう道そのものがなくなると考えた方が近い説明です。

事象の地平線の内側では、未来へ進むすべての経路がブラックホール内部へ向かいます。

イメージとしては、流れの速い川で、どれだけ上流へ泳ごうとしても下流へ運ばれる状況に少し似ています。

ただし、ブラックホールの中で水が流れているわけではありません。実際には、時空そのものの構造が、光や物質の進める方向を決めています。

ブラックホールの構造と光が逃げられない仕組みを示した図解

ブラックホールの周囲では、強い重力によって光の経路が大きく曲げられる。事象の地平線の内側からは、光も外へ戻れない。

※時空の曲がりと光の経路を簡略化した図解です。

「脱出速度が光速を超える」という説明の限界

ブラックホールは、「脱出速度が光速を超える天体」と説明されることがあります。イメージをつかむには便利ですが、一般相対性理論による説明とは少し異なります。

単に強い引力で光を引き戻しているのではありません。事象の地平線の内側では、外へ向かう未来の経路が存在しなくなるため、光も戻れません。

シュワルツシルト半径は、回転や電荷を持たないブラックホールについて、事象の地平線に相当する半径を質量から求めたものです。太陽と同じ質量なら約3kmになります。

事象の地平線は地面や表面ではない

事象の地平線は、内側から光や情報が外へ届かなくなる境界です。地面や壁のような物質的な表面ではありません。

境界の見え方は、遠方にいる観測者と、ブラックホールへ落下する物体自身とで異なります。

遠方から見ると、落下する物体の動きは次第に遅く見えます。そこから届く光も強く赤方偏移し、暗くなっていくため、やがて観測できなくなります。

一方、落下する物体自身が、事象の地平線で壁に衝突するわけではありません。十分に大きなブラックホールでは、境界を通過する瞬間に局所的な異変を感じない場合もあると予測されています。

1970年代には、スティーブン・ホーキングが量子力学的な効果によってブラックホールが熱放射を出すと予測しました。ホーキング放射が続けば、ブラックホールは長い時間をかけて質量を失い、最終的に蒸発すると考えられます。

通常の恒星質量ブラックホールや超大質量ブラックホールが出すホーキング放射は極めて弱く、直接観測された例はありません。

見えないブラックホールをどうやって見つけるのか

ブラックホール本体ではなく、その周囲に現れる重力や放射の影響を観測します。

主な方法は、星やガスの運動、X線や電波、重力波の3つです。それぞれの観測から、ブラックホールの質量や活動の強さ、合体の様子などを読み取れます。

星やガスの動きから質量を調べる

見えない天体の周囲を星が高速で回っていれば、その軌道から中心天体の質量を計算できます。

天の川銀河の中心にある「いて座A*」では、周囲の星を長期間追跡した結果、非常に小さな領域に太陽の約400万倍の質量が集中していることがわかりました。

星の軌道を詳しく調べると、中心天体の質量だけでなく、その質量がどれほど狭い範囲に集まっているかも推定できます。

2022年には、EHTがいて座A*のブラックホールシャドウを捉えた画像を公開しています。

X線や電波から活動の強さを調べる

ブラックホールの周囲にガスが集まると、回転する降着円盤が形成されることがあります。ガスは円盤内で激しく運動し、エネルギーを失いながら高温になり、強いX線を放出します。

X線や電波を分析すると、ブラックホールがどの程度活発に物質を取り込んでいるか、周囲のガスがどれほど高温かを調べられます。

また、ブラックホールの回転軸に沿って伸びるジェットの構造も、電波観測から追跡できます。参考:国立天文台 / ブラックホールをさがす

重力波から合体の様子を調べる

2015年、LIGOは2つのブラックホールが合体した際に生じた重力波を初めて直接検出しました。重力波は、大きな質量を持つ天体の運動によって生じる時空の波です。

重力波の波形を解析すると、合体前のブラックホールの質量、回転、合体後にできた天体の性質、地球までのおおよその距離などを推定できます。

光をほとんど出さないブラックホール連星でも、合体時に生じる重力波から存在を確かめられるようになりました。

LIGO、Virgo、KAGRAなどの観測では、ブラックホールを含む多数の合体候補が記録されています。従来の恒星進化モデルだけでは説明しにくい質量を持つ例もあり、形成過程には複数の経路があると考えられています。

LIGOが検出したブラックホール合体による重力波シグナル

LIGOが2015年に初めて検出した重力波シグナル。2つのブラックホールが合体する直前の時空の変動を記録している。

出典:LIGO Scientific Collaboration / Caltech(パブリックドメイン)

EHTの画像で見えたもの、まだ見えていないもの

EHTが公開した画像は、ブラックホール研究の大きな前進でした。ただし、通常の写真のようにブラックホール本体を撮影したものではありません。

中央の暗い部分は事象の地平線そのものではなく、周囲の光が強く曲げられて生じたブラックホールシャドウです。

シャドウは事象の地平線よりも大きく見えます。周囲の高温ガスから出た光がブラックホールの重力で曲げられ、一部が地球へ届かなくなるためです。

画像から読み取れること 画像だけではわからないこと
中央にブラックホールシャドウがある ブラックホール内部の状態
周囲に高温ガスの放射がある 特異点の形や性質
シャドウの大きさが一般相対性理論の予測と整合している 事象の地平線を直接見たわけではない
放射の明るさに偏りがある ブラックホール全体を写真のように撮影したわけではない

この画像からブラックホール内部が見えたわけではありません。観測できたのは、事象の地平線の外側で起きている光と物質の振る舞いです。

それでも、予測されていた大きさと形に近いシャドウが捉えられたことは、ブラックホール近くの強い重力場でも一般相対性理論が成り立つことを調べる重要な手がかりになりました。

ブラックホールの周囲で起きる現象

降着円盤

ブラックホールへ向かうガスが角運動量を持っていると、すぐには落下せず、周囲を回る円盤を形成します。これが降着円盤です。

ガスは円盤内を移動しながら高温になり、可視光、紫外線、X線などを放出します。活動中のブラックホールで観測される強い光の多くは、ブラックホール本体ではなく、この降着円盤から届いています。

ブラックホールは、周囲の物質を取り込む降着や、別のブラックホールとの合体によって成長します。参考:NASA Science / Black Hole Anatomy

降着円盤を持つブラックホールの周囲で光がゆがむ様子を示したNASAの可視化画像

ブラックホールの強い重力によって、降着円盤から届く光の経路が曲げられている。円盤の裏側から出た光も、ブラックホールの上下に回り込んで見える。

出典:NASA Scientific Visualization Studio(SVS #14619)

相対論的ジェット

活動的なブラックホールの中には、回転軸に沿って高エネルギー粒子の細い流れを噴き出すものがあります。これを相対論的ジェットと呼びます。

ジェットは銀河を越えるほど長く伸びることもあります。ブラックホール内部から放出されるのではなく、降着円盤や磁場、ブラックホールの回転が関係して形成されると考えられています。

ただし、粒子がどのように加速され、細い流れとして長距離にわたって保たれるのかには不明な点が残ります。

ブラックホールは質量によって分けられる

ブラックホールは、主に質量の規模によって分類されます。

種類 特徴 主な存在場所
恒星質量ブラックホール 大質量星の重力崩壊などで形成される。多くは太陽の数倍から数十倍程度の質量を持つ。 銀河内の連星系など
中間質量ブラックホール 恒星質量と超大質量の中間にあたる。候補は見つかっているが、確実な観測例は限られる。 星団や矮小銀河など
超大質量ブラックホール 太陽の数百万倍から数百億倍規模の質量を持つ。 大規模な銀河の中心部

中間質量ブラックホールは、恒星質量ブラックホールと超大質量ブラックホールの間を埋める存在として研究されています。重力波や星の運動から候補は報告されていますが、観測例はまだ限られています。

超大質量ブラックホールは、多くの大型銀河の中心に存在するとみられています。天の川銀河中心のいて座A*は、太陽の約400万倍の質量を持つと推定されています。

ただし、宇宙の初期に超大質量ブラックホールがどのように生まれ、急速に成長したのかには、まだ結論が出ていません。

恒星質量ブラックホール・中間質量ブラックホール・超大質量ブラックホールの違いを比較した図解

ブラックホールは質量によって大きく分類され、形成過程や見つかり方にも違いがある。

※質量による分類を簡略化した図解です。

このほか、宇宙誕生直後の高密度な領域から生じたとする原始ブラックホールも提案されています。

特定の質量範囲の原始ブラックホールが存在すれば、ダークマターの一部を構成できるという仮説があります。ただし、存在を確定する観測証拠は得られていません。

ブラックホールの中はどこまでわかっているのか

ブラックホールの外側は、星の運動や電磁波、重力波を通して調べられるようになりました。ところが、事象の地平線の内側から情報は届きません。

ここから先は、直接観測ではなく理論が頼りになります。

特異点は実在するのか

一般相対性理論をそのまま適用すると、ブラックホールの中心には「特異点」が生じると予測されます。

特異点では、密度や時空の曲率が無限大となり、現在の方程式では物理状態を記述できません。

ただし、この結果は、自然界に文字どおり無限大の領域が存在すると証明したものではありません。一般相対性理論だけでは、極めて小さなスケールで働く量子力学の効果を扱えないため、理論の適用限界が現れている可能性があります。

一般相対性理論と量子力学を統合する量子重力理論が確立すれば、特異点や内部構造の説明が変わるかもしれません。

弦理論やループ量子重力理論など、複数の方法で研究が進められていますが、観測によって選び出された理論はまだありません。

ブラックホール情報パラドックス

ブラックホールへ落ちた情報が失われるのか、それとも何らかの形で保存されるのかという問題は、ブラックホール情報パラドックスと呼ばれています。

量子力学では、情報は失われないと考えられています。一方、一般相対性理論だけを見ると、事象の地平線を越えた情報は外から確認できません。

この食い違いをどう解決するかは、ブラックホール研究だけでなく、量子重力理論を考えるうえでも重要な課題です。

ワームホールやホワイトホールをブラックホールと結びつける数理モデルもありますが、実在を示す観測結果はありません。

関連する理論は「ワームホールとは?」「ホワイトホールとは?」で扱っています。

落下する物体に働く潮汐力

ブラックホールへ落下する物体には、ブラックホールに近い側と遠い側で重力の差が生じます。この差が潮汐力です。

潮汐力が十分に強ければ、物体は落下方向に引き伸ばされ、横方向には押し縮められます。この変形はスパゲッティ化と呼ばれます。

潮汐力の強さはブラックホールの質量によって異なります。恒星質量ブラックホールでは事象の地平線へ到達する前に大きな潮汐力を受ける可能性があります。

超大質量ブラックホールでは、事象の地平線付近の潮汐力が比較的小さい場合があり、境界を越えたあとに強い潮汐力を受けることも理論上は考えられます。

観測されたことと、まだわからないこと

分類 現在の理解
観測で確かめられていること 星やガスの軌道、X線・電波、重力波、ブラックホールシャドウなどから、ブラックホールの存在と性質を示す観測結果が得られている。
理論と観測が一致していること 強い重力による光の曲がりや、EHTが捉えたシャドウの大きさは、一般相対性理論の予測とおおむね一致している。
理論上予測されていること 特異点、ホーキング放射、事象の地平線の内側での時空構造などは理論から導かれているが、直接確認できないものも多い。
まだ結論が出ていないこと 内部構造、情報パラドックス、量子重力との関係、超大質量ブラックホールの初期形成過程など。

ブラックホールについてよくある質問

地球の近くに危険なブラックホールはありますか?

地球へ直ちに危険を及ぼす距離にブラックホールがあることを示す観測結果はありません。

天の川銀河中心のいて座A*は、地球から約2万6,000光年離れています。銀河内には恒星質量ブラックホールも存在しますが、地球の軌道や環境に影響を与える距離には確認されていません。

太陽はブラックホールになりますか?

太陽はブラックホールを形成するほど重くありません。将来は外層を放出し、中心部が白色矮星として残ると考えられています。

ブラックホールは永遠に存在しますか?

ホーキング放射が正しければ、ブラックホールは長い時間をかけて質量を失い、最終的に蒸発すると予測されています。

ただし、天体として存在するブラックホールの蒸発には、現在の宇宙年齢をはるかに超える時間が必要です。また、ホーキング放射は直接観測されていません。

ブラックホール同士が衝突するとどうなりますか?

2つのブラックホールは互いの周囲を回りながら重力波を放出し、少しずつ接近します。最終的には合体し、より大きなブラックホールになります。

合体前の質量の一部は、重力波のエネルギーとして宇宙空間へ放出されます。LIGOなどの観測装置は、この時空の変動を捉えています。

まとめ

ブラックホールは直接見ることができません。それでも、周囲を回る星、降着円盤から届く電磁波、合体で生じる重力波、ブラックホールシャドウを通して、その存在と性質は確かめられています。

一般相対性理論は、事象の地平線の外側で起きる現象を高い精度で説明しています。一方、境界の内側や特異点、落下した情報の行方については、観測だけでは答えを出せません。

姿を捉えられるようになった現在も、ブラックホールの中心には、物理学がまだ説明できない領域が残っています。

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参考・引用元

-ブラックホール・時空
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