夜空をどれだけ見渡しても、宇宙の壁や端が写ることはありません。望遠鏡で見える範囲には限界がありますが、それは宇宙そのものがそこで終わっているという意味ではありません。
「宇宙の外側」という言葉には、観測可能な宇宙の外、宇宙全体の外、別宇宙という、三つの異なる話が混ざっています。同じ「外」でも、指しているものはまったく違います。
この違いを分けると、どこまでが観測から言えることで、どこからが理論や仮説なのかが見えてきます。
宇宙の外側を考える前に分けたい3つの意味
「宇宙の外側」を一つの話として扱うと、すぐに行き詰まります。異なる三つの問いが、同じ言葉で呼ばれているためです。まずは、その意味を切り分けます。
観測可能な宇宙の外側
観測可能な宇宙とは、現在までに地球へ光や情報が届き得た範囲のことです。望遠鏡の性能だけで決まるのではなく、宇宙の年齢と光の速さ、そして空間の膨張によって、情報が届く距離に限界が生まれます。
この範囲の外側は、宇宙の物理的な終わりではありません。私たちへまだ情報が届いていない、あるいは宇宙膨張のため今後も届かない領域です。宇宙原理を観測範囲の外へ適用すれば、その先にも同じ時空と似た物質分布が続いていると推定されます。
中心にいるのは地球だけではありません。どの場所の観測者も、自分を中心とした観測可能な宇宙を持ちます。地球が宇宙の中心という意味ではなく、観測できる範囲が観測者ごとに決まる、というだけのことです。
観測可能な宇宙の大きさや、約930億光年という値が何を意味するのかは、観測可能な宇宙の記事で詳しく扱っています。
宇宙全体の外側
二つ目は、空間や時間、物質やエネルギーを含めた宇宙そのものの外を考える話です。これは、箱の外や部屋の外とは意味がまったく違います。
箱の外には部屋の空間があります。けれども宇宙の場合、「外の空間」を想定した瞬間、その空間もまた宇宙の一部ではないか、という問いが残ります。
宇宙が何か別の空間の中に置かれていると確かめられたわけではありません。むしろ、外側という方向そのものが定義できないモデルもあります。外部の空間が存在すると観測された事実はなく、ここから先は理論やモデルの話に入ります。
別宇宙という仮説
三つ目が、別宇宙という考え方です。これは、私たちの観測範囲の外という話とは別物です。
観測可能な宇宙の外側は、同じ時空の続きとして考えられる領域です。一方、別宇宙は、私たちの宇宙とは因果的に分離した別の時空領域として扱われることが多く、通常の光や信号を直接やり取りできないと想定されます。
こうした別宇宙を含む考え方がマルチバースですが、これは一つの理論ではなく、複数の理論的な枠組みをまとめた言葉です。直接観測された事実ではありません。
| 話題 | 何を指すか | 現在の位置づけ |
|---|---|---|
| 観測可能な宇宙の外側 | まだ地球へ情報が届かない、または今後も届かない領域 | 標準モデルでは同じ宇宙が続くと推定 |
| 宇宙全体の外側 | 空間と時間を含む宇宙そのものの外 | 外という概念が成立しない可能性 |
| 別宇宙 | 私たちとは別の時空領域 | 理論上の仮説 |
観測可能な宇宙の外には何があるのか
宇宙が続いていると考えられる理由
観測可能な宇宙の境界に、壁のようなものは見つかっていません。観測範囲の端で宇宙が急に終わると考える根拠も、今のところありません。
標準的な宇宙論では、十分に大きなスケールで見た宇宙は、場所によって大きく性質が変わらず、どの方向にもおおむね同じように見えると仮定します。これが宇宙原理です。
この考え方に立つと、私たちの観測範囲の境界だけで、空間や物質分布が急に途切れると考える理由はありません。
宇宙原理と標準的な宇宙モデルに従えば、観測可能な範囲の外にも、同じような空間や物質の分布が続いていると推定されます。ただし、これは直接観測した結果ではありません。
観測可能な宇宙の外側は、宇宙そのものの終わりではありません。
なぜ直接見ることができないのか
光が地球に届くには時間がかかり、宇宙の年齢は有限です。そのため、まだ光が届いていない領域は、どれだけ望遠鏡を高性能にしても直接見ることはできません。
さらに、宇宙は膨張していて、天体との距離は時間とともに変化します。時間がたつことで新たに光が届く領域がある一方、すべての領域が将来観測できるようになるわけではありません。
標準宇宙論モデルでは、加速膨張が将来も続くため、十分に遠い領域から現在以降に発せられる信号の中には、どれほど時間がたっても私たちへ届かないものがあると計算されます。
観測できないことと存在しないことは違う
霧の中では、見える範囲に境界ができます。けれども、その境界の先で地面そのものが終わっているとは限りません。
宇宙の観測限界も、これに近いところがあります。見える範囲が決まるのは壁があるからではなく、光の速さ、宇宙の年齢、空間の膨張という条件によって、情報が届く範囲が決まるからです。
見えないことと、存在しないことは同じではありません。
宇宙全体に端や壁はあるのか
物理的な壁は確認されていない
宇宙の端に、壁や膜、外殻のようなものがあるという観測証拠はありません。観測可能な宇宙の境界は、あくまで情報が届く限界です。
観測可能な宇宙の境界は、宇宙の壁ではありません。
ここでよく混同されるのが、宇宙背景放射(CMB)です。CMBは、宇宙が冷えて光が直進できるようになった時代から届く光で、宇宙誕生から約38万年後の状態を伝えています。
CMBは、宇宙の端や壁ではありません。観測できる非常に古い光と、空間そのものの終わりは、別の話です。
有限でも端がない宇宙はあり得る
地球の表面は有限ですが、どこにも端はありません。まっすぐ進み続けても壁にぶつからず、同じ場所へ戻ることができます。
これは2次元の補助的なたとえですが、3次元の空間でも、有限で境界を持たない形は理論上あり得ます。
ただし、地球表面の外側にある宇宙空間を、そのまま宇宙の外側へ重ねることはできません。宇宙が高次元の空間の中に埋め込まれていると確かめられたわけでもないからです。
宇宙が有限でも、物理的な端があるとは限りません。そして現在の観測だけでは、宇宙全体の大域的な形や位相までは決まっていません。
平坦でも必ず無限とは限らない
空間の曲がり方である曲率と、宇宙全体のつながり方である位相は、別の性質です。ここを混ぜると、平坦なら無限だと早合点しやすくなります。
観測では、宇宙は大きなスケールでほぼ平坦であることと整合しています。プランク衛星のデータをほかの観測と組み合わせた測定でも、空間はきわめて平坦に近いという結果が得られています。
ただし、平坦な空間でも、端と端が周期的につながった有限の形は理論上あり得ます。
平坦だからといって、無限とは限りません。局所的な曲率と宇宙全体の位相は別の問題で、宇宙の大きさも現在の観測だけでは確定していません。
曲率と位相、有限と無限の関係は、宇宙の形の記事で詳しく扱っています。
「宇宙の外」という問いが成立しない場合
宇宙は何かの中に浮かぶ物体ではない
宇宙は、何もない空間の中に置かれた球体とは限りません。宇宙は、空間と時間そのものを含んでいます。
黒い空間の中に宇宙の球が浮かぶCG画像は、あくまで概念図です。宇宙全体を外側から撮影した画像ではありません。
宇宙膨張も、宇宙が外側の空間へ向かって広がる現象ではありません。宇宙論では、離れた銀河どうしの距離を表す空間の尺度が、時間とともに変化すると記述します。銀河や原子、私たちの体まで一緒に引き伸ばされるという意味ではありません。
宇宙膨張は、宇宙が外部の空間へ飛び出していく爆発ではありません。
「北極より北」と似ている点と違う点
「宇宙の外」という問いは、「北極より北はどこか」という問いに少し似ています。北極は地球上で最も北の点なので、それより北という方向は、定義のうえで存在しません。
宇宙の外も、同じように、外という方向そのものが成り立たない可能性があります。「宇宙の外」という方向が定義できないモデルもあります。
ただし、違いもあります。北極は、地球表面という形がはっきり分かったうえでの話です。宇宙全体の形は、まだ完全には確定していません。たとえだけで「宇宙に外はない」と証明できるわけではない、という点には注意が必要です。
外部空間を仮定する理論もある
一方で、宇宙をより高い次元の空間に埋め込んで考える理論もあります。ブレーン宇宙などがその例です。
これらは標準的な宇宙論で必ず必要になる要素ではなく、観測で確認されてもいません。宇宙の外を発見した、という話とは別のものとして扱われます。
マルチバースは宇宙の外側なのか
マルチバースには複数の意味がある
マルチバースは、一つにまとまった理論ではありません。同じ「別の宇宙」という言葉でも、立場によって意味が違います。
代表的なものに、永遠のインフレーションから生じる泡宇宙と、量子力学の多世界解釈があります。前者は時空の異なる領域を想定する考えで、後者は量子的な分岐に関する解釈です。二つは同じ仕組みを説明する理論ではありません。
インフレーションから別宇宙が生じる考え
一部の永遠のインフレーションモデルでは、急膨張が局所的に終わった領域が、泡宇宙と呼ばれる時空領域を形成すると考えます。私たちの観測可能な宇宙も、そのような領域の一つかもしれないという仮説です。
ただし、泡宇宙そのものを直接観測したわけではありません。泡宇宙同士の衝突が宇宙背景放射に痕跡を残す可能性を調べる研究もあります。しかし、これまでの解析で泡宇宙の存在を示す決定的な証拠は得られていません。
インフレーション自体と、永遠のインフレーションは同じではありません。膨張が一度で終わり、宇宙が一つだけになるモデルもあります。初期宇宙の急膨張については、インフレーション理論の記事で扱っています。
別宇宙は観測可能な宇宙の外側と同じではない
観測可能な宇宙の外側は、同じ時空の続きで、私たちへ情報が届いていない領域です。一方、別宇宙は、因果的に分離した別の時空かもしれない領域で、理論上の仮説にとどまります。
この二つを同じ「外」として並べると、観測から言えることと、仮説の話が一緒になります。マルチバースや別宇宙が観測で確認されたわけではありません。
どこまでが観測で、どこからが仮説なのか
宇宙の外側をめぐる話には、確かさの異なる内容が並びます。同じ確からしさで語らないために、観測で分かっていることから、未確認の仮説までを段階で分けます。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 観測されていること | CMB、銀河の大規模分布、宇宙膨張、空間曲率への制限 |
| 標準モデルから推定されること | 観測可能な範囲の外にも同じ宇宙が続く可能性 |
| 観測で決まっていないこと | 宇宙全体の大きさ、全体形状、位相 |
| 理論上の可能性 | 有限で端がない宇宙、高次元空間 |
| 未確認の仮説 | 永遠のインフレーションによる泡宇宙、マルチバース |
上から下へ進むほど、観測による直接的な裏づけは少なくなり、理論やモデルへの依存が強くなります。順位や有力さを示しているのではなく、根拠の種類が違うということです。
この表の出発点になっている宇宙背景放射そのものについては、宇宙背景放射の記事で詳しく扱っています。
宇宙の外側についてよくある疑問
観測可能な宇宙の外には銀河がありますか?
標準的な宇宙モデルでは、同じ宇宙の空間や物質分布が続いていると考えるのが自然です。ただし、その領域を直接観測することはできません。
宇宙の端には壁がありますか?
壁や外殻があるという観測証拠はありません。観測可能な宇宙の境界は、光や情報が届く限界であって、物理的な仕切りではありません。
宇宙は何かの中に浮かんでいますか?
標準宇宙論では、宇宙を外部空間の中に置かれた物体として扱う必要はありません。外部空間を仮定する理論もありますが、確認されてはいません。
宇宙が有限なら外側があるのでは?
有限でも境界のない空間は理論上あり得ます。有限であることと、端や外側があることは、同じではありません。
マルチバースは証明されていますか?
証明も直接観測もされていません。複数の理論から現れる仮説の総称であり、確定した結論ではありません。
まとめ
観測可能な宇宙の外側は、宇宙の壁の向こうではありません。私たちへまだ情報が届いていない、あるいは宇宙膨張のため今後も届かない、同じ宇宙の続きとして考えられる領域です。宇宙原理と標準的な宇宙モデルに従えば、その先にも同じような空間や物質が広がっていると推定されますが、直接見ることはできません。
一方、宇宙全体に「外」があるかどうかは、宇宙の形や定義に左右されます。物理的な壁がある証拠はなく、有限でも端がない形や、平坦でも有限な位相は理論上あり得ます。現在の観測は、宇宙全体の大きさや位相までは決めていません。
高次元空間やブレーン宇宙、永遠のインフレーションによる泡宇宙、マルチバースは、いずれも観測で確認された事実ではなく、理論や仮説の段階にあります。別宇宙と観測可能な宇宙の外側は、意味も根拠の確かさも異なるため、分けて扱う必要があります。
「外側」を一つの意味で扱わず、観測限界、宇宙全体、別宇宙を分けることで、どこまでが観測から言えることで、どこからが推定や仮説なのかを整理できます。
参考情報
記事の作成にあたり、以下の研究論文・研究機関の公開情報を参照しました。
- Planck Collaboration「Planck 2018 results. VI. Cosmological parameters」
宇宙論パラメータと空間曲率に関する観測結果。 - NASA Science「WMAP Overview」
宇宙背景放射の観測と初期宇宙に関する解説。 - 国立天文台「宇宙の果てはどうなっているの?」
観測可能な宇宙と、その外側に関する解説。 - 国立科学博物館「宇宙にはてはあるのですか?」
宇宙の有限性と端の有無に関する解説。 - Stephen M. Feeney et al.「First Observational Tests of Eternal Inflation: Analysis Methods and WMAP 7-Year Results」
宇宙背景放射を用いた泡宇宙衝突の痕跡探索と、その観測上の制限。