地球の質量に対応するシュワルツシルト半径は約8.9ミリメートル、太陽の質量では約2.95キロメートルです。
地球の実際の半径は約6,371キロメートル、太陽は約69万6,000キロメートルあります。現在の地球や太陽は、対応するシュワルツシルト半径よりはるかに広い範囲へ物質が分布しています。
シュワルツシルト半径は、ある質量をどこまで小さな範囲へ収めると、事象の地平線が形成されるかを示す長さです。
この長さは質量だけで決まります。天体の実際の半径、事象の地平線、ブラックホールシャドウと分けて考えることで、意味がはっきりします。

シュワルツシルト半径とは何か
ブラックホールの地平線規模を表す長さ
シュワルツシルト半径は、回転せず、電荷を持たず、球対称なブラックホールで、事象の地平線の半径にあたる長さです。
式は質量だけで決まるため、ブラックホールだけでなく、地球、太陽、人、小石など、質量を持つ対象には対応する値を計算できます。
通常の天体について計算した値は、その天体に実際の地平線があることを示すものではなく、同じ質量をどの程度まで圧縮すると地平線規模へ達するかを表します。
シュワルツシルト半径は、質量から求めた長さを、物体が実際に占める大きさと比較するための尺度です。
質量が半径内へ収まると地平線が形成される
球対称な物体を圧縮し、物質全体が対応するシュワルツシルト半径の内側へ入ると、未来向きの光や情報が外部へ届かない領域が形成されます。
その境界が事象の地平線です。
シュワルツシルト半径は、空間にあらかじめ置かれた壁ではありません。質量分布が条件を満たしたとき、時空の因果構造を表す境界として意味を持ちます。
重要なのは、中心からの距離だけではなく、全質量がどの範囲に分布しているかです。
中心に現れるとされる特異点は、事象の地平線とは別の概念です。両者の違いは、ブラックホールの特異点の記事で詳しく説明しています。
カール・シュワルツシルトが求めた解
名称は、ドイツの物理学者カール・シュワルツシルトに由来します。
シュワルツシルトは、アインシュタインが一般相対性理論を発表した直後に、球対称で真空という条件のもとで重力方程式の厳密解を求めました。その結果は1916年に公表されています。
このシュワルツシルト解が表すのは、回転と電荷を持たない理想化された天体の外部時空です。
現実のブラックホールの多くは回転しているため、より正確な記述にはカー解が使われます。
「シュバルツシルト半径」「シュヴァルツシルト半径」と表記される場合もありますが、このページでは「シュワルツシルト半径」に統一します。
シュワルツシルト半径の計算式
シュワルツシルト半径は、次の式で計算します。
式に含まれる記号は次のとおりです。
| 記号 | 意味 | 主な単位 |
|---|---|---|
| rs | シュワルツシルト半径 | m |
| G | 万有引力定数 | m³ kg⁻¹ s⁻² |
| M | 天体や物体の質量 | kg |
| c | 真空中の光速 | m/s |

質量と半径は比例する
万有引力定数Gと光速cは定数なので、シュワルツシルト半径は質量Mに比例します。
質量が2倍なら半径も2倍、10倍なら半径も10倍です。
太陽質量1個分につき、対応するシュワルツシルト半径は約2.95キロメートル増えます。
密度や天体の現在の半径は、この式には直接入りません。天体が実際にブラックホールへ重力崩壊するかは、内部圧力、核反応、質量放出、最終的な核の質量などで決まります。
脱出速度による直感的な導出
ニュートン力学の脱出速度からも、同じ形の式を導けます。
天体の表面から飛び出した物体が戻らずに離れていくための速度を、脱出速度と呼びます。この脱出速度を光速cと置くと、半径として2GM/c²が現れます。
この計算は、シュワルツシルト半径の大きさを直感的に理解する助けになります。
一般相対性理論では、事象の地平線は、光や物質の未来向きの経路が外側へ続かなくなる因果境界として導かれます。
ニュートン力学は同じ長さのスケールを示し、一般相対性理論はその境界が持つ時空の意味を説明します。
地球と太陽のシュワルツシルト半径
地球質量では約8.9ミリメートル
地球の質量を使って計算します。
- 万有引力定数 G ≒ 6.67430×10⁻¹¹ m³ kg⁻¹ s⁻²
- 地球質量 M ≒ 5.972×10²⁴ kg
- 光速 c ≒ 2.99792458×10⁸ m/s
これらを式へ入れると、地球質量に対応するシュワルツシルト半径は約8.9ミリメートルです。直径では約1.8センチメートルになります。
一方、実際の地球半径は約6,371キロメートルです。
地球では、同じ質量がシュワルツシルト半径より約7億倍大きな半径へ分布しています。
「地球は約9ミリ」と表現される場合、その数字は地球そのものの大きさではなく、地球質量に対応する地平線規模を指します。
太陽質量では約2.95キロメートル
太陽質量を約1.9885×10³⁰キログラムとして計算すると、シュワルツシルト半径は約2.95キロメートルです。直径では約5.9キロメートルになります。
太陽の実際の半径は約69万6,000キロメートルあり、対応するシュワルツシルト半径の20万倍以上です。
太陽は進化の最後にブラックホールを形成するほど重い恒星ではありません。外層を宇宙へ放出したあと、中心部は白色矮星になると考えられています。
質量が変わると半径はどう変わるのか
質量とシュワルツシルト半径は比例するため、質量を並べると地平線規模の違いを簡単に比較できます。
| 対象 | 質量の目安 | シュワルツシルト半径 |
|---|---|---|
| 地球 | 地球1個分 | 約8.9mm |
| 太陽 | 太陽1個分 | 約2.95km |
| 恒星質量級の例 | 太陽10個分 | 約29.5km |
| 中間質量級の例 | 太陽1万個分 | 約2.95万km |
| 超大質量級の例 | 太陽100万個分 | 約295万km |
表の値は、回転せず、電荷を持たない球対称ブラックホールを仮定した概算です。

質量が大きいほど形式的平均密度は下がる
シュワルツシルト半径は質量に比例します。
その半径を通常の球の半径として体積を計算すると、体積は質量の3乗に比例します。
質量をその体積で割った形式的な平均密度は、質量の2乗に反比例します。
ブラックホールの質量が大きくなるほど、シュワルツシルト半径を使って求めた形式的な平均密度は低くなります。
超大質量ブラックホールでは、この値が水の密度に近くなったり、それ以下になったりする場合もあります。
これは、地平線内部を一様な物質球として表した密度ではなく、質量と地平線規模を比較するための数値です。
シュワルツシルト半径と事象の地平線の違い
シュワルツシルト半径は地平線の大きさに対応する
回転せず、電荷を持たず、球対称なシュワルツシルト・ブラックホールでは、事象の地平線の半径がシュワルツシルト半径と一致します。
ただし、二つの言葉が指すものの種類は異なります。
シュワルツシルト半径は、質量から計算される長さです。
事象の地平線は、内側から外部へ光や情報を送る未来向きの経路が途切れる因果的な境界です。
理想化された非回転ブラックホールでは、地平線の大きさを表す長さとしてシュワルツシルト半径を使います。
長さ・境界・観測像を分ける
| 用語 | 何を表すか |
|---|---|
| シュワルツシルト半径 | 質量から計算される長さ |
| 事象の地平線 | 光や情報が外部へ届かなくなる因果境界 |
| 天体の実際の半径 | 物質が分布している範囲 |
| ブラックホールシャドウ | 光の軌道と重力レンズによって観測される暗い領域 |

回転ブラックホールはカー解で扱う
宇宙で観測されるブラックホールの多くは回転しています。
回転するブラックホールは、シュワルツシルト解ではなくカー解で記述されます。
カー・ブラックホールでは、地平線の位置が質量だけでなく回転の大きさにも左右されます。
同じ質量で比べると、回転が大きいほど外側の事象の地平線に対応する座標半径は小さくなります。
シュワルツシルト半径は、ブラックホールの規模を示す基準として有用ですが、回転を含む地平線の形と位置にはカー解が必要です。
EHT画像に見えるブラックホールシャドウ
イベント・ホライズン・テレスコープは、ブラックホール周辺から届く電波を地球規模の電波望遠鏡網で観測しています。
画像中央の暗い領域がブラックホールシャドウです。
強い重力によって光の経路が曲げられ、観測者へ届く光が少なくなる方向が暗く見えます。
周囲の明るいリングは、事象の地平線の外側を運動する高温プラズマから届く放射です。
非回転ブラックホールでは、シャドウの直径はシュワルツシルト直径の約2.6倍です。シュワルツシルト半径と比べると約5.2倍になります。
そのため、画像に見える暗い円の直径を、地平線の直径としてそのまま読むことはできません。

出典:ESO「First Image of a Black Hole」
Credit: EHT Collaboration/Image ID: eso1907a/License: CC BY 4.0
質量と距離から地平線規模を検証する
ブラックホールの質量は、周囲の恒星やガスの軌道、重力波、降着円盤から届く電磁波などを使って推定します。
観測対象までの距離も求め、その質量と距離から、地球から見たシャドウの角度を一般相対性理論で予測します。
EHT画像で測定したリングやシャドウの大きさを予測と照合することで、地平線付近の時空が一般相対性理論と整合するかを調べます。
シュワルツシルト半径は質量から計算し、シャドウは光の曲がりを含む観測画像から検証します。
ブラックホールの形成や観測方法は、ブラックホールの形成と基本構造の記事で詳しく説明しています。
数値を読むときに区別したい4つのこと
地球質量の8.9ミリは地球内部の穴ではない
約8.9ミリメートルは、地球質量に対応する地平線規模です。
実際の地球では、同じ質量が半径約6,371キロメートルの範囲へ分布しています。
地球質量全体を半径約8.9ミリメートル以内へ収めるという条件を置いたとき、この値が事象の地平線の半径に対応します。
遠方の重力は質量で決まる
球対称な天体の外側では、同じ質量なら遠方の重力場も同じ形になります。
太陽を同じ質量のブラックホールへ置き換えたと仮定しても、地球軌道付近で受ける重力はほぼ変わりません。
地球は同じ距離で公転を続けますが、太陽光が届かなくなるため、地球環境は大きく変化します。
地平線内でも局所的な光速は一定
一般相対性理論では、どの場所でも局所的に測る真空中の光速は同じです。
事象の地平線の内側では、未来へ向かう光の経路自体が中心側へ続きます。
外部へ信号が届かなくなる理由は、光の速さの低下ではなく、時空の因果構造にあります。
詳しい仕組みは、事象の地平線の記事で説明しています。
シャドウは地平線より大きく見える
ブラックホールシャドウは、事象の地平線、光子軌道、重力レンズ、周囲のプラズマを含む観測上の暗い領域です。
画像の暗部を測るときは、シュワルツシルト半径、シュワルツシルト直径、シャドウ直径のどれを比較しているかを区別する必要があります。
理論・観測・未解明を分ける
| 区分 | 現在の位置づけ |
|---|---|
| 一般相対性理論 | シュワルツシルト解と半径の公式を与える |
| 計算 | 質量から対応する長さを求められる |
| 観測 | 質量・距離・シャドウから地平線規模を検証する |
| 回転ブラックホール | カー解で地平線と周囲の時空を記述する |
| 未解明 | 地平線内部の量子重力、特異点、最終的な内部構造 |
シュワルツシルト半径の公式と、非回転ブラックホールにおける地平線との関係は、一般相対性理論の中で明確に記述されています。
観測では、質量、距離、周囲の軌道、重力波、ブラックホールシャドウを組み合わせ、地平線規模の時空を検証します。
一方、事象の地平線より内側、とくに特異点付近では、一般相対性理論と量子力学を統合する理論が必要です。
シュワルツシルト半径は確立した計算尺度であり、その内側の量子構造は現在も研究が続く領域です。
シュワルツシルト半径についてよくある疑問
シュワルツシルト半径とは何ですか?
回転せず電荷を持たない球対称ブラックホールで、事象の地平線の半径にあたる長さです。質量から計算でき、物体の実際の大きさと比較することで意味を持ちます。
地球と太陽ではどれくらいですか?
地球質量では約8.9ミリメートル、太陽質量では約2.95キロメートルです。どちらも半径の値で、直径はその2倍になります。
すべての質量にシュワルツシルト半径を計算できますか?
質量が決まれば対応する値を計算できます。人や小石にも非常に小さな値があります。ブラックホールになるかどうかは、その質量が実際にどの範囲へ分布しているかで決まります。
事象の地平線と同じですか?
非回転・無電荷・球対称のブラックホールでは、事象の地平線の半径がシュワルツシルト半径と一致します。シュワルツシルト半径は長さ、事象の地平線は因果的な境界を指します。
EHT画像の暗い部分と同じ大きさですか?
EHT画像の暗い部分はブラックホールシャドウです。非回転ブラックホールでは、シャドウの直径はシュワルツシルト直径の約2.6倍、シュワルツシルト半径の約5.2倍になります。
まとめ|シュワルツシルト半径は質量と地平線を結ぶ尺度
シュワルツシルト半径は、回転せず電荷を持たない球対称ブラックホールで、事象の地平線の半径に対応する長さです。
計算式はrs=2GM/c²で、質量に比例します。地球質量では約8.9ミリメートル、太陽質量では約2.95キロメートルです。
通常の天体については、対応するシュワルツシルト半径と実際の半径を比べます。全質量がその範囲へ収まる球対称モデルでは、事象の地平線が形成されます。
シュワルツシルト半径は長さ、事象の地平線は因果境界、ブラックホールシャドウは光の曲がりによって見える暗い領域です。
非回転ブラックホールでは、シャドウの直径はシュワルツシルト直径の約2.6倍になります。EHTは、この観測像を質量と距離から予測される大きさと比べ、地平線付近の時空を検証しています。
シュワルツシルト半径は、質量、天体の大きさ、事象の地平線、観測画像を結びつける基本的な尺度です。
回転するブラックホールではカー解が使われ、地平線の位置は回転にも左右されます。さらに内側の量子重力や特異点の構造は、現在も研究が続いています。
参考情報
- Einstein Online|Schwarzschild radius
シュワルツシルト半径の定義、地球約9ミリ、太陽約2.95キロという値の確認に使用。 - NASA Science|Universe Glossary
シュワルツシルト半径と事象の地平線の基本的な位置づけの確認に使用。 - Event Horizon Telescope|FAQ
事象の地平線、ブラックホールシャドウ、EHT画像の関係の確認に使用。 - ESO|First Image of a Black Hole
M87*のブラックホールシャドウ画像の出典として使用。